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山仕事の新しい担い手たち〜アンケートに見る新規就労者の生活と意見〜山仕事の新しい担い手たち〜アンケートに見る新規就労者の生活と意見〜

山仕事の新しい担い手たち〜アンケートに見る新規就労者の生活と意見〜ブックレット「水・緑・流域」より

【集計結果9】地域や行政への要望

現在の支援制度のうちで必要なものは何か。選択率(重複回答)で見ると、「生活資金の融資」と「担い手の養成」がともに44.6%、「公営住宅の確保」「住宅購入支援」「社会保険料補助」「退職金かさ上げ支援」「新規就労者の育成補助」がそれぞれ三三%、「賃貸住宅の家賃補助」「作業機械購入助成」がともに31.4%、「自立支援」が24%、「既存住宅の補修」が18.2%、「地域住民との交流」は14.9%、「女性の労働環境整備」は11.6%だった(表20)。


表20 地域や行政への要望について・自治体(町村役場)のサービスについて
現在の様々な林業支援の制度の内であなたにとって必要と思われる制度はどれですか(複数回答)
支援制度 回答数 選択率(%) 構成比(%)
公営住宅の確保 40 33.1 8.2
賃貸住宅の家賃補助 38 31.4 7.8
住宅購入の支援 41 33.9 8.4
既存住宅の補修 22 18.2 4.5
生活資金(教育・医療・自家用車購入等)の低利融資 54 44.6 11.0
社会保険費用の事業所負担分への補助 40 33.1 8.2
退職金かさ上げ補助 41 33.9 8.4
事業所への新規就労者の育成資金補助 40 33.1 8.2
担い手の養成・研修 54 44.6 11.0
女性従事者の労働環境整備(トイレ・休憩所等) 14 11.6 2.9
新規就労者の作業機械購入助成 38 31.4 7.8
地域住民との交流促進 18 14.9 3.7
自立支援対策 29 24.0 5.9
その他 5 4.1 1.0
無回答 16 13.2 3.3
合計 490 100

表21 
山林どれぐらいの面積を望みますか
(山林を持ちたい方)
面積(ha) 回答数 構成比(%)
5未満 17 45.9
5〜9 2 5.4
10〜14 5 13.5
15〜19 0 0.0
20〜24 1 2.7
25〜29 1 2.7
30以上 2 5.4
その他 3 8.1
無回答 6 16.2
合計 37 100


「自分の山林を持ちたいか」という問いに、30.6%が「持ちたい」と回答した(図7)。持ちたい人の89.2%が借地ではなく所有を希望している。希望面積は、「5ヘクタール未満」が45.9%に次いで、「10〜14ヘクタール」は13.5%だった(表21)。

しかし、山林保有希望者のうち、70%が「資金がない」、70.3%が「自治体の支援が必要」という問題点を複数回答で答えた。



表22
畑:どれくらいの面積を望みますか
(畑を持ちたい方)
面積(ha) 回答数 構成比(%)
5未満 4 12.1
5〜9 1 3.0
10〜14 9 27.3
15〜19 0 0.0
20〜24 4 12.1
25〜29 0 0
30以上 10 30.3
無回答 5 15.2
合計 33 100

畑については、27.3%が「持ちたい」と回答(図8)。希望者の64.7%が所有を望み、面積は30アール以上が30.3%、10〜14アールが27.3%、5アール未満と20〜24アールは12.1%だった(表22)。畑を持つための問題点として、48.5%が「資金がない」、66.7%が「自治体の支援が必要」と答えた。


山林、畑地について、「持つ方法がわからない」人が2割前後もあった。ここにも、自治体の支援策が求められている。山林、農地の保有は、永住の意思の表れである。 7割以上の就労者が、地域行事に参加し、役場の広報を読んでいた。地域の集会には、53.7%が参加しており、近所の人びとと飲食の機会をもつ者は58.7%であった(図9)。


表23 地域の人と一緒にやりたいこと(一緒にやりたいことがある方複数回答)
内容 回答数
スポーツ・スポーツ行事 3
山登り 2
祭り 2
ボランティア活動 1
写真 1
餅つき大会などの楽しいこと 1
運動会 1
野球 1
ソフトボール 1
テニス 1
旅行 1
地域清掃等 1
50代になったら木工をやりたい 1
PTA活動 1
会食・祭り・共同作業など、一緒にできることは何でもやりたい 1
地域の行事が少ないのでいろいろなイベントを作ってほしい 1
一緒にしていて楽しいこと(コミュニケーションがとりやすくなる) 1
親睦を深めること(日常生活が有意義になり充実した生活が送れる) 1
その他 1
無回答 14
合計 37


「地域の人と一緒にやりたいことは何か」という設問に、62%が「ない」と回答、25.6%が「ある」と回答し、スポーツや趣味の集い、祭りなど地域活動をあげた(表23)。 近所付き合いで「わずらわしいことがある」と答えた者は10.7%で、「ない」という回答が77.7%であった。


また、「山仕事の合間にやりたいこと」について、26.4%が「ある」と答えた。「やりたいこと」として、農業や木工、建築、漁業、民宿、ボランテイア、焼物、炭焼き、溶接、機械修理、アルバイト、庭仕事などが列挙された。都会のサラリーマン経験者は、パソコンも駆使できる(図10と表24)。

表24
山仕事の合間にしている仕事内容(既にしている場合複数回答)
内容 回答数
農業(米、野菜、柚子など) 4
県営林監視業務 1
新聞配達 1
合計 6

山仕事の合間にやりたい仕事内容(やりたい仕事がある場合複数回答)
内容 回答数
農業(米、野菜、柚子など) 9
木工 7
漁業 2
建築(ログハウス) 2
設計(ログハウス) 1
建築(自宅) 1
農家民泊 1
アルバイト 1
森林ボランティア 1
焼物 1
溶接業 1
炭焼き 1
自動二輪、機械類の修理 1
庭仕事 1
自家所有の山林で、現在仕事をしている 1
雨・雪の多い時期は収入が少なく生活が苦しくなるので不足分を補える仕事があればやりたい 1
無回答 6
合計 38

永住するためには、地域や自治体にどんな要望事項があるかを具体的に聞いてみた。表25に掲げるように、居住環境(住宅、土地の斡旋、公営住宅の供給、水道施設など)、雇用条件(安定した所得、福利厚生の拡充)にかかわる要望が多い。 所得の激減するIターン・Uターン者にとって、過去2年間の所得に応じて負担額が算定される公営住宅、保育料がきわめて過大であるということも指摘された。 この表の最後の回答者は、過疎対策としての支援事業ではなく、もっと積極的に安定した雇用(通年、月給制)の実現を優先するよう求めている。「業」としての林業の前途が険しい今日、プロフェッショナルな「山師」を数多く育成する条件は乏しい。しかし、こうした熱意とエネルギーの持ち主を山村は渇望しているはずである。 山村役場の担当者は、彼らとの対話に時間をかけるべきだ。その思いをコミュニティーの寄り合い場で語ってもらうことも大切であろう。


表25 その他、住み続けるために地域や自治体に相談したいこと、要望したいことがありますか
内容
回答数
水道施設の完備
2
就労補償、収入安定対策
1
家の土地の確保、山川をもっとたいせつにしてほしい
1
空き家を貸してもらえるよう支援してほしい、給与面で将来的に不安
1
安定的な仕事の供給
1
自分の家を持ちたいので、土地・家などの情報を提供してほしい
1
医療費補助、住宅補助制度の充実、県・町営住宅への斡旋・費用補助
1
住宅や借地できる所を広く紹介してほしい
1
収入・福利厚生の向上・安定、事業の安定・拡大
1
住宅斡旋・補助、子供に対する補助、新婚(若年)家庭に対する補助
1
地域社会に自立し、根ざすための直接的な支援
1
畑や家などを安くかえるようにしてほしい
1
他府県出身者に対して偏見を持たないでほしい
1
公営住宅の確保
1
仕事の確保
1
気楽に話し合える場所や人
1
日雇い・請負時の単価(賃金)等の値上げ、林業が不況の時は自治体等の支援が必要
1
高齢化で後継者不足
1
新規就労者を増やす補助
1
林業の現状をもっと国民に知らせるべき
1
地域にもっとアパート・マンションなどが必要
1
林業全体をうまく回転させるための企業誘致を考えるべきだと思う。たとえば、辺材を使用して集成材にした木製サッシを商品化して、サッシメーカーの工場を誘致するなど。
1
林業従事者の所得の確保と作業条件の整備
  • 林業従事者の仕事の強度と賃金がつりあってないため、新規就労先として魅力に欠ける。また、社会保険等加入促進が遅れている。(木材単価が安く会社の事業収益が悪いため)
  • 林業の仕事の強度が他業種に比べ高いのは地理的条件が大半であり、架設足場等安全確保を計るのには、個々の作業現場に合わせた条件整備が必要である。安全確保を計るために要する費用は会社等が負担
1
近くにボーリング場を作ってほしい
1
住宅を建てられる土地がない
1
Iターン者にとっては、過去の所得によって保育料や家賃が決定するのは非常につらい。特に保育料は、2年間も過去の所得によって料金がしばられるので、所得が下がった現在は支払いが非常に苦しい。そのため、退所も考えざるをえない。例外を認め、現在の月給や年収を考慮して決定してほしい。
1
市町村による支援策を見ましたが、「新規就労者」には甘すぎるぐらいの政策ではないでしょうか。僕も自分自身の決断で来たIターンですが、支援策の内容を吟味したり情報収集をしたりして来たわけではありません。しかし、こちらに来て困る事などは地元の方々の個々的な協定で達成できましたし、お陰で自分自身ある程度の責任感を持ってやっております。これらの政策は、新規就労者の就業環境を直接的に打破できるものではないと思います。各事業体のそれなりの雇用規模が見込まれれば、自ずと就労者も増えるであろうし安定雇用(通年、月給雇用)も可能になります。支援策のなかには完全に過疎対策的な政策も見受けられ、新規就労者がただ生活しているだけというような責任感のない人が増えるのではないでしょうか。新規就労者は、いろいろな価値観を持っております。安定雇用になれば、それぞれ自立的・自発的に生活していくと思います。総括的には、新規就労者を抱える各事業体への現場作業での事業支援を検討してもらいたい。そうすれば、プロフェッショナルな「山師」が生まれるのではないでしょうか。林業作業は、肉体的に厳しい作業です。その環境改善を考えるよりも、雇用改善を考えるべきではないでしょうか。(サラリーマンを辞め、妻・子ども1人とともに転居。経験3年。日給制で月額20万円だが、25万円を希望。ボーナスなし。社会保険完備。)
1
合計
28

【むすび】


目次

【はじめに・新規就労者調査のねらい】

【集計結果】

  1. 就労者の特性
  2. 就労期間と林業経験
  3. 山仕事の選択動機、就労のてがかり
  4. 研修参加と資格取得
  5. 作業内容、労働の強度
  6. 作業上の改善点
  7. 待遇の現状と評価
  8. 日常の暮らしについて
  9. 地域や行政への要望

【むすび】