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徳島地方自治研究所は地方自治に関する総合的な調査研究事業を行い、住民に密着した地方自治の発展と地域社会の振興に寄与することを目的としています。

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山仕事の新しい担い手たち〜アンケートに見る新規就労者の生活と意見〜山仕事の新しい担い手たち〜アンケートに見る新規就労者の生活と意見〜

山仕事の新しい担い手たち〜アンケートに見る新規就労者の生活と意見〜ブックレット「水・緑・流域」より

【むすび】

林業を取巻く経済情勢は、きびしい。市場経済の中で国産材を評価するならば、他産業のように海外移転と原料輸入に狂奔すればことが足りる。世界的規模で環境問題が議論されている中でこそ、自然環境の重要な構成要素として森林をとらえ直さなければならない。山林の広い四国では、この視点なくして、地域振興策はあり得ない。

このアンケート調査の対象者の多くは、Iターン・Uターンで就業している。彼らは林業の限界をわきまえているとしても、森林を抱える農山村に魅力を感じ取り、そこに秘められた可能性に着目している。絶えざる人口流出を目撃してきた山村コミュニティーにとっては、瞠目すべき新たな構成要員なのである。

町村合併による役場職員の削減は、ただちに山村の過疎化に拍車をかける。山村が手っ取り早く活性化を目指すには、荒廃する森林と農地を社会的資源ととらえて雇用創出策に取り組まなければならない。新規就労者たちは、そこで一緒に環境保全型社会を模索しようとしている。

そのためには、山村自治体の首長が先頭に立って新たな政策を模索し、国の制度改革を促すべきである。分権型社会にあっては、地方で自ら実験を重ね、国政を変えていく心構えが大切だと考える。

今回の調査結果を踏まえて、次のような事項に留意して政策を立案することを提言する。

定住にかかわること
  • アンケート回答者の3割前後が、山林や農地の保有を希望している。それは、地域に永住したいという意思表示そのものである。自治体は、コミュニティーの成員たらんとする者を受け入れる態勢を早急にととのえるべきである。まず、農林地の斡旋と取得資金融資、住宅取得や改築、生活資金融資などの支援策の充実から着手しなければならない。
  • 仕事の合間に何かをやりたいという意欲をもつ人が、4分の1を占めている。こうした新規就労者のエネルギーを地域おこしに活用しなければならない。多様な経歴の持ち主たちは、異業種交流のネットワークを生み出し得る。それに行政が加わることで、コミュニティービジネスが芽生えてくる可能性がある。


山仕事のこと
  • 山仕事のイメージは、次のように提示してはどうだろうか。「自然相手の仕事であって、時間的なゆとりに恵まれている。労働はきついが、経験年数が長くなれば、仕事がおもしろくなる。知識と熟練、仲間との呼吸が大切である」
  • 労働条件の面では、とくに給与形態を月給制へ誘導する方策を講じるべきである。
  • 就業機会を拡大する取り組みがなされれば、女性の進出が期待できる。たとえば、オぺレーターなどの職種に女性の雇用を積極的に取り入れるべきである。
  • 就労者の半数以上が、怪我を経験している。労災事故は、研修と現場での経験、作業環境などが複雑に絡み合って発生すると推測される。当面の政策支援として、安全衛生研修に要する実労働損失の補填助成制度などの検討が考えられる。
  • 労働強度の面では保育、植林がきついとの回答が80%近くある。これを軽減する技術研究と労働内容の検討が必要である。たとえば、歩道路の改善、運送用モノレールの助成などが考えられる。


森林問題全般にかかわること
  • 就業のきっかけでは、支援センター経由は約14%にとどまっている。今後、取り組みの強化が必要である。
  • 林業の就労経験をもたない者が、74%を上回っている。就業希望者向けに短期の体験研修制度を創設すべきである。また、回答者の90%以上の者が、山仕事は熟練と専門知識、仲間との人間関係が必要だと回答している。修学期間が一年間程度の林業教育機関を開設して、専門知識と作業実習などの専門教育を行うべきである。
  • 水源税の使途にもかかわることだが、森林保全が地域にもたらす環境貢献度を評価する制度を創設する。評価点数を金銭化して、従業者の福利厚生や福祉サービスに充てることとする。
  • この調査では、新規就労者のうち年間201日以上従事している者は約46%に過ぎなかった。作業は林齢、作業進行により五年をピークに減少傾向に転ずるとの見方もある。新規就労者の雇用を継続し拡大するには当面、梅雨期に農産物加工の作業などを確保する必要がある。根本的には、農山村のもつ国土保全や環境維持の機能を重視した助成策を求めなければならない。


目次

【はじめに・新規就労者調査のねらい】

【集計結果】

  1. 就労者の特性
  2. 就労期間と林業経験
  3. 山仕事の選択動機、就労のてがかり
  4. 研修参加と資格取得
  5. 作業内容、労働の強度
  6. 作業上の改善点
  7. 待遇の現状と評価
  8. 日常の暮らしについて
  9. 地域や行政への要望

【むすび】